PIRKA SIRI ◆◆◆ |
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●7/アイヌ文化フェスティバルと名古屋市博物館の展覧会 先日9/9土に行われた「アイヌ文化フェスティバル」の模様とその印象、そして名古屋市博物館で9/9〜10/9まで開かれる「特別展 馬場・児玉コレクションにみる 北の民 アイヌの世界」の印象を以下に書いていこうと思います。 地下鉄「神宮西駅」の出入口から地上に出る。今日はついこの間まで涼しかったことが嘘みたいに朝からあいかわらず残暑の日射しが強い。ただでさえ汗かきなのに頬や首筋をつたう汗の球は、容赦なく僕を不快にさせている。 午前中に所用があったせいでぎりぎりの行動となってしまったこともあったが、手に入ったチラシを見ながら、やや急ぎ足で「名古屋市教育センター」へ向う。すでに時刻は午後1時を指している。遅刻を自覚しつつあたりを伺うも、まだその建物は見つからない。 視線をあげると派出所が見えるので迷わず飛び込み、センターの場所を聞くと、さらに歩かねばならない。暑いし汗が吹き出てるし遅刻だし…。救いようがないが、ともかく足を進める。と、見上げると茶色のビルに「名古屋市教育センター」の文字。なんだか地下鉄も次駅から降りたほうが近そうだった。いやむしろ、地下鉄よりもJRのほうが明らかに早く着けそうなのに今ごろ気がついた。 1階入口からセンターの中に入ると、正面に受付が用意されていた。封筒で郵送されてきたハガキタイプの入場整理券を渡すと、2階からホールに入ったほうが席が見つかりやすい、ということだった。言われたとおりに2階席からホールに入っていくと、見事に満席になっている。内心こんなに盛況になるとは想像しておらず、ただただ圧倒されてしまった。ああ、席がない…と思うのと、アイヌに関心のある人が以外(と書けば失礼か)に多いと思うことが同時に頭に浮かぶ。 どうにか席を確保したとき、舞台の壇上ではすでに挨拶が始まっていた。左に主催者側3名、右に協力諸団体を代表して4名が座っている。挨拶に前者の財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構理事長の佐々木高明氏と名古屋市博物館の竹内正氏が、祝辞として後者の社団法人北海道ウタリ協会理事長の笹村二朗氏が話された。 佐々木氏の挨拶は遅刻したせいで途中からしか聞けなかったのだが、こういった始めのお話は、いってみればありきたりの挨拶でしかないので、失礼な話しだがまったく耳に入らなかった。要するに「旧土人保護法」から「アイヌ文化振興法」に代ったしこれからどんどんアイヌに理解を示してほしい云々ということだったように思う。今回は名古屋市博物館だが、広島で展覧したあと、東京でも巡回する展覧会らしいので、さらにアイヌのことを理解してもらえることだろうと思う。 諸氏が壇上から外れ、続いて始まるプログラムの準備が進むなか、司会の女性が博物館の展示やイベント内容を紹介し始めた。段取りとしては正解なのだと思うが、その宣伝活動ぶりはなんとも耳障りだった。 準備が整ったので埴原和郎氏による講演「アイヌの祖先をさぐる」が始まる。氏の研究は形質人類学の見地から、骨や歯を調べて種族(ここではアイヌ民族)の形成を調べることらしい。それによるとアイヌ民族はインドネシア方面から北上して派生した縄文人系で、中国大陸(朝鮮半島)から九州に入り、関西あたりまで伸びてきた北方系の人種とは違う、ということだった。形質上日本人のほとんどは縄文系であり、関西以西〜九州あたりは北方系が強いらしく、その北方系人種によって分断された中部以北の日本人は縄文系の形質を多く残しているとのことだった。とうぜんアイヌもそれに含まれる。 ただ、北海道はカムチャツカ半島側からも北方系人種が入って来たであろうから、多少の混血はあるだろうとのことだった。 ここらあたりから話が突然形質人類学から文化人類学になっていったのが妙だが、その混血はオホーツク文化であるモヨロ貝塚などからも見られるとのことだった。 このフェスティバルのあとのことだが、「アイヌ民族の歴史と現在を考える会」の例会に出席した際、埴原和郎氏の講演が話題として提供された。某氏との対談集「アイヌは原日本人か」が1983年のことなので、そのころからあまり変わっていない講演内容だった、という感想から、なぜ「文化」のフェスティバルで「民族分類」を語る必要があるのか?形質学から文化まで推測するのはどうか?という批判まで多岐にわたっておおいに盛り上がった。僕はそこでは「ふ〜ん」と聞くことに専念(というより知識不足で発言できない)していたけれど。 続いてビデオ「アイヌ文化を学ぶ」の上映。僕はすでにこれを見ていたが、改めて見直すかたちで見せてもらった。端的ではあるが大変良くまとまったビデオだと個人的には思っている。今日のフェスティバルは、まずこのビデオから始めても良かったのでは?と思った。 約10分の休憩 舞台の幕が上がると、すでに中本ムツ子さんが座られていた。中本ムツ子さんは前出のビデオにも出演されていらっしゃるフチ(おばあさん)で、カムイユーカラやウエペケレなどを伝承されている方。今回は「カンナカムイ」のカムイユーカラを語ってもらった。カンナカムイとは雷の神様のこと。中本さんのユーカラはCDなどからは聞いたことがあるが、生で聴くことなどめったにないこと(特に名古屋なんかでは!)なので、実は今回のフェスティバルで一番楽しみにしていたことだった。 まずあらすじを日本語で教えていただいた。用意された水をひとくち含まれたあと、ユーカラは始まった。 あらすじは、カンナカムイがあるコタン(村)にやってきて(もちろん上空だけれど)とあるコタンでは崇められたけれど、また別のコタンでは邪魔者扱いを受けたことに腹をたて、雷を落として村を焼いてしまった。そこであるアイヌから抗議を受け改心し、その後は雨などを降らせて豊かな村になるように見守った、というもの。 先のビデオやこのユーカラを聞くと、いかにアイヌとカムイ(神)が対等でお互いに支え合っているのかが解る。 ユーカラを語り終わり、舞台から下がられるときに脚を悪くされているのが伺われた。病いをおしてまで名古屋くんだりまで来ていただいて大変うれしく思った。早く良くなることを願ってやまない。 引き続き白老民族芸能保存会による民族舞踊。舞台後方の壁ぎわにはイテセ(編みござ)が3本下げられ、雰囲気づくりがなされている。舞台には女性十数名、男性2名がアイヌの民族衣裳のいでたちで勢揃いといった感がある。演目が次々と演じられていく。「歌いましょう踊りましょう」「子守歌」「ムックリ演奏」「サルルンチカップリムセ(タンチョウの踊り)」「来場者とムックリの体験」「エムシリムセ(刀の踊り)」「ピリカの歌」「イオマンテリムセ(熊送りの踊り)」と続く。個人的には「エムシリムセ」と「イオマンテリムセ」が何とも勇壮で良かった。 アイヌの踊りや歌は、アイヌの文化を理解してもらうには有効な手段ではあると思う。けれど、儀礼や日頃の作業のあいまに歌われたり踊られたりしたもので、もともと見世物としてあるわけではないので、何だか封雑な気分ではある。 あとから聞いた話だが、今、北海道でアイヌ舞踊保存会と思われる団体は17、8団体あり、ほとんどは手弁当・ボランティアで練習に励んでいるのだとか。そのなかでも、今日見させてもらった白老民族芸能保存会は、国からの助成金(微々たるものらしい)も出て、さらに今日のような興行?で収入を得られているので十分な練習が出来、今回の催しのような機会にも発表できる場を与えられ、またそのレベルにも達している、とのことだった。このような、いわば上級レベルの団体は、白老、阿寒、旭川、平取など、数団体しかないとのことだった。 ただ、先ほども書いたが、見世物ではなく、日々の暮らしのために行われる舞踊や歌なので、手弁当やボランティアのほうが本道のような気もするのだがどうだろう。 ところで翌日、名古屋市博物館のホールでもアイヌ舞踊を見ることができた。内容は一部演目が代わっただけで大体はフェスティバルのときと同じ。お酒を作るときの歌と踊りがあって、なかなか素敵であった。この日も会場は満席で、アイヌ舞踊は人気があるなぁと思った。 フェスティバルのプログラムはこれで終了。ロビーでアイヌの服や彫刻などが展示されていたのでチラチラっと見ながら外に出ようと思ったところ、展示物を見ているオジサンが係の人に「アイヌって今何人いるの?」と聞いていた。催し物を見て「アイヌの文化って素敵だなぁ」と思うより、こういった無意味な、馬鹿げた質問が頭に浮かぶような思考しかないことが残念でならない。 今日、この場所でアイヌ文化に接した人々はどのような思いでここに集まったのかが知りたくなる。 アイヌ文化を知りたいから?アイヌの踊りを見たいから?異文化を見知りたいから?このあたりならまだまし。 こんな機会しかアイヌ人を見られないから?生アイヌを見たいから?これは最悪である。他者を受け入れにくい名古屋人特有の感覚でもあるかもしれないが、そんな人の品性を疑ってしまう。先ほどのオジサンは後者ではなかろうか?と推測してしまいそうだ。 そういうことで、今回のフェスティバルは、盛況にはなって、一見成功したように見受けられるが、実際に訴えなければならない「アイヌ文化とアイヌ民族への理解」という面ははたしていかばかりであろうか?はなはだ心もとないと言わざるを得ないだろう。 さて、日が明けて10日、博物館へ「特別展 馬場・児玉コレクションにみる 北の民 アイヌの世界」を妻子と共に見に出かけた。先ほども書いたが丁度アイヌ舞踊もあったので見ることにした。 展覧会場へ入る際、図録を購入する。助成金が出ているせいか、格安の1000円!通常、図録なんてこれの倍以上はするのでビックリ。 白老、旭川、平取などのアイヌ関連の博物館やそのほかの地で展示されている民族資料を見てきたが、あまり見かけたことのない展示物もあり、なかなかの見ごたえである。 でも。 ここで特別展のチラシにある一文を紹介しよう。 「北海道を中心に、北方地域に広く居住していたアイヌ民族は、アイヌ語やアイヌ文様などに代表される独自の文化を育んできました。(中略)生活すべてがカムイとともにあるという深い世界観が流れています。(中略)アイヌの世界とその魅力をわかりやすくご紹介します。」 たしかに、とりあえずアイヌ民族というものをおぼろげながら知識の中に入れる、いわゆる「初級編」というだけなら、これで良いのかもしれない。けれど、アイヌ民族の今、という観点からみた場合、まったく説明不足といえるだろう。アイヌ民族のいま現在おかれている立場や、これまでなされてきた差別・偏見というものまで含めて説明しないことには、単なる伝統文化財の展示で終わってしまうのではないだろうか。これはまったく機会を逸している。実にもったいない。ビデオで現状もわかるようにしてあるようだが、何人の人が足を止めて見ていくだろう。 特に地方都市(つまりこの名古屋)の場合、アイヌ民族に対して無知な方々もいる。というか、そのほうが大多数だと思う。にもかかわらず「今」を置いてきぼりにしたこの展示法では、アイヌは滅んだ民族、と言われても仕方がないのだ。 さらに「児玉コレクション」を蒐集した児玉作左衛門(故人)氏。確かに学術研究対象としては役立たず(収集地・収集場所・収集者が不明なものが大多数で研究対象に成り得ない)ではあるものの、蒐集物そのものは素晴らしいし、アイヌ民族の伝統文化を保存・継承することに寄与したことは認める。だが一方で、元来北海道大学の学者で、調査・研究の名のもとにアイヌの墓から骨を持ち出し、調査・研究終了後は返還すると言いながら、未だにそれがなされていない、というこの事実。 以上のことから見ても、この展覧会をまったくの手放しで褒め上げるわけにはいかない。 今後、このような展覧会があるのなら、ぜひ、アイヌ民族の現状もうたった展覧会にしてほしい。でなければ、本当にアイヌは過去のものとされてしまう気がしてならないのだ。 ◆PHOTO CAPTION 上から〜 ●アイヌ文化フェスティバル/チラシの表と裏 なかなかきれいに仕上がっています。一見どりらか表か裏かはっきりしませんが。両面4色 ●アイヌ文化フェスティバル/入場整理券 会場のホール内に入るにはこのハガキが必要でした。エンジ色の1色刷り。 ●アイヌ文化フェスティバル/プログラム チラシの表面を1色分解したものと思われます。なかにはプロクラムですから、進行表、あいさつ文、中本ムツ子さんのユーカラを記述したもの。でもこの通りには語らない、と中本さんはおっしゃいました…。 ●展覧会/図録 本文中にも書きましたが1000円というリーズナブルな価格設定です。展示物の紹介のあいまあいまにアイヌ文化などを紹介する文章があります。いけないのは展示物の写真の廻りに青いグラデーションがかかっていること。なんだか意味ありそうでないんだなぁ。すなおに展示物だけいれておけば良いものを…。 ●展覧会/チラシ表 展示物の屏風を抜粋した写真で構成されています。イオマンテを描いたこの屏風も、おおまかには正解ですが部分的に怪しいところもあったりして…。 |
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